バングラデシュについて

顧問、元会長 堀口松城

堀口前会長とファティマ大使

 

バングラデシュ人の住むベンガル地方は、国中を流れる大中小多数の河のためインド亜大陸の他の地域から隔てられてきたこともあり、北部、南部、西部インドやパキスタンとは異なる地域的特色を持ち、例えばタゴール、アマルティア・セン、ムハンマド・ユヌスなどのノーベル賞受賞者を生んできました。(但し、タゴールもアマルティア・センもインド人として受賞。また、インド人としてのノーベル賞受賞者はユヌスを除き5名)。

バングラデシュにはまた、日本と多くの共通点があります。人種、宗教、言語が殆ど単一であること、モンスーン型季節の下での農耕が培った国民の勤勉さ、自然とその変化を愛でる詩や俳句を愛する文学好き、そして紀元前5世紀、アショーカ王がもたらし、インドやパキスタンでは廃れた後も、15,6世紀に国民の大勢がイスラム化するまで続いた仏教の影響と思われる謙譲さなどの国民性が挙げられます。

しかし、豊かな自然条件から「黄金のベンガル」と言われたコメの生産で知られ、また、欧州、中東の人々に好まれた「ダッカモスリン」などの織物を作リ出していたベンガルは、1757年のプラッシーの戦いを機として英国の植民地支配下に置かれると、やがて農業は藍やジュートなどモノカルチャー農業に変えられ、織物は英国の産業革命による機械製の綿製品の輸入と使用を強制されて衰退しました。

さらにイギリス植民地時代の、ベンガルを含むインドの貧困の基本的原因として広く指摘されているのは、インド全国で東インド会社社員等として働くイギリス人の給与のみならず、イギリス本国におけるインド統治に関する関係大臣から下級公務員迄公務員全員の給与など、全インドの貯蓄の3分の1に当たる富が毎年イギリスに移転され、農民の福祉が全く顧みられなかったことです。このため、農村では貧困と無気力が蔓延し、飢饉が国中で頻発することとなったのです。

第二次大戦後、バングラデシュは英国からの解放と、大きな犠牲を払って獲得した独立の後、国民の上記長所を背景とする努力や、国際社会の援助にもかかわらず、長い間、発展を軌道に乗せることができませんでした。

その理由について、ベンガル人の一歴史家は、バングラデシュの貧しさは、経済的見地のみならず社会的、文化的、歴史的な見地からも理解する必要があるとし、バングラデシュの発展レベルの低さは、何百年にわたって外部から来た人々に支配された結果、道徳的、文化的に破滅させられ、国民の誇りも自信も、その他国家を構成する本質的要因とともに破壊されているためであると指摘しています。

日本は多年に亘るバングラデシュに対する最大援助国として、他の援助諸国とともに、同国の発展に不可欠な人材の育成、インフラ整備などに特別の配慮を払いつつ、経済的、社会的発展のための努力を重ねてきました。とくに、政府と企業、NGOなど官民双方が独立直後から力を合わせて、バングラュの経済的社会的発展に親身の協力を続けた結果、バングラデシュの政府および国民の努力とあい待ち、バングラデシュ経済は次第に上向き始めたのです。特に21世紀に入って「チャイナ・プラス・ワン」の動きの下で、中国に投資していた日本企業が、安くて勤勉な労働力を求めてバングラデシュに次々と進出するなどの外的要因や、さらに政治的、経済的発展を少なからず阻害してきた、二大政党による対立的政治の変化も加わり、バングラデシュ経済は顕著な成長軌道に乗ってきました。 具体的には2016/17年度(7~翌年6月)までの10年以上6%を超える経済成長率が続き(その後は7%台に乗せています)、一人当たり国民所得は2016/17年度には1,600ドルを超え、国民の平均寿命は過去25年の間に10歳以上伸びて71才になり、識字率は21年前の45%から2012年には80%に達しています。

他の開発途上国の例では、一人当たり国民所得が1,000ドルを超えると成長を支える産業基盤が広がり、成長は加速し、インフラへの投資と技術の普及が進行し、消費者の購買力が上昇し、経済成長も国内需要の動向がより重要な要素になり、新中間層の拡大と国内市場の成長が見られるようになる由です。バングラデシュでも、現に縫製品に継ぐ第二の輸出産業品目として革製品が目覚ましい伸びを見せており、またIT産業発展のための経済特区の設立や人材育成の動きも顕著なものがあります。そして一人当たり国民所得の急拡大に伴い、新たなビジネスが次々とスタート・アップし、先ず高等教育ブームが到来して、5年間に数十の大学が新設され、理科系に特化した塾や、オンラインのITスキル教育が生まれた他、水浄化ビジネス、便利屋サービス、契約農家からの無農薬食品の調達とデリバリー・サービス、携帯電話を使ったバンキング・サービス、食料・雑貨のオンライン・サービスなどが急速に普及しつあります。

このようなバングラデシュ経済の目覚ましい発展を受けて、2018年3月国連は、バングラデシュが一人当たり国民所得指標、成人識字率などの人的資源(asset)指標、そして経済的脆弱性指標の三基準に照らして最貧国卒業資格を満たしたとし、この状況があと6年続けば最貧国からの正式な卒業を認める旨認定しました。バングラデシュは国を挙げてこの認定を祝うとともに、次の課題である2021年までに中進国入りを果たすとの目標に向かって力強い着実な歩みを続けています。

世界中で最も親日国の一つと言われるバングラデシュのさらなる発展と、日バ友好関係の促進のため、日バ協会は皆さんと力を合わせていきたいと思います。